『幼児の文字の特徴』



幼児の書き方に関する素朴な疑問



Qどうしてこんな持ち方をするの?

Q正しい持ち方がよくわかりません

Qとても姿勢が悪いのが気になります。でもいくら注意をしても直りません

Qどうしてこんなヘンな形の字になってしまうのでしょう?

Q手本のとおりの形になりません

Qはね、はらいができません

Qはね、はらいってなぜ大切なの?

Q書き順のまちがいは、何度注意しても直りません

Q信じられないような書き順をするのですが・・・

Q鏡字を書きます






   【鉛筆の持ち方】



どうしてこんな持ち方をするの?




 鉛筆を正しく持つことは、幼い子どもにとってはとても困難なことです。なぜならば、鉛筆は、大人が考えているより、はるかに扱いにくい用具だからです。


 鉛筆は、本来強く握りしめるものではありません。指先で持つものです。

 けれども、文字を書き始めた頃は、まだ手指が十分には発達していませんので、指先では鉛筆が持てません。 文字を書くときには、鉛筆がぐらぐらしたりすべったりしないように、ぎゅっと握り締めて安定させているのです。

写真に見られるような持ち方はどれも、鉛筆を握り締めた状態です。指先は鉛筆を支えていません。

正しい持ち方がよくわかりません

 
子どもたちに多くみられるのは、以下のような持ち方ですね。

(1)親指が飛び出してしまっています



(2)人差し指がとんがっています。



(3)鉛筆が紙の方に倒れてしまっています。





 

子どもたちが、鉛筆をうまく使えないのは、鉛筆を持つのではなく、握る(または掴む)からです。


鉛筆は親指、人差し指、中指の3本の指の先で持ちます。これを3点支持といいます。
この3本の指がうまく働いたとき、思い通りの形の字が書けるのです。 けれども、現代の子どもたちには、それがなかなかうまくできないようです。

手指の器用さが発達していない段階で、この指導をしますと、力の入れ方を誤ってしまい今まで以上に疲れやすく、長い時間字を書くことが困難となることがあります。

無理強いせず、補助器具や、太い鉛筆を持たせましょう。
そのほうが、細かい動きに対応できますし、指に負担がかかりません。

以下の持ち方は、おおむね、最初から、鉛筆(細い用具)を使わせたことが原因です。


(1)指先で鉛筆を持とうとしても、鉛筆が細すぎてうまくできません。こどもにとっては、字の形より、鉛筆を安定させるほうが先決。ぎゅっと握りしめて鉛筆を安定させようとしたために、親指がはみ出てしまったのです。

(2)指先の位置は合っているのですが、人差し指に力が入りすぎて、指先はそりかえり、第2関節はとがってしまいました。この状態で文字を書くと、すぐに手が痛くまります。

(3)は(2)と似ていますが、鉛筆がさらに紙の方に倒れてしまって、鉛筆が思い通りの方向に行ってくれません。

このように、持ち方のせいで、運筆が制約されるので、字がうまく書けない場合があります。

とはいえ、まずは、指先の器用さをたかめるための、遊びをしっかりさせましょう。

正しい鉛筆の持ち方


   (1)教科書に紹介された持ち方の図



(2)文字の書き方の本にある持ち方の説明




どうしたら正しい持ち方をすることができるの?



「正しい持ち方」というと、それ以外は間違った持ち方ということになってしまいます。 持ち方が異なっていても、文字は書けるのですから、特定の持ち方を「正しい持ち方」と断定することはできません。


ここで紹介する「正しい持ち方」とは、文字教材で紹介されている「正しい持ち方」であり、学校教育で指導される「標準的な持ち方」と考えてください。


手指の器用さが発達していない幼児にとっては、小学校で指導されるような持ち方をすることは、文字が書きにくく、納得いかないことなのです。幼児にとっては、鉛筆をぎゅっと握ったほうがはるかに書きやすいからです。

5歳くらいまでに、指先をうまく使って鉛筆を扱える子は非常に少ないでしょう。持ち方についてあまりきびしく言うと、文字を書く意欲までなくなってしまうこともあります。

だからといって、学校に行くまで放っておいては、悪いくせが身についてしまって直りません。実際のところ、この指導がもっとも頭の痛い課題です。

一番大切なことなのですが、特効薬はありません。子どもの発達をよく見極めて、徐々に、根気よく指導することが大切です。








     【姿勢】



とても姿勢が悪いのが気になります

 

 でも、いくら注意をしても直りません。




 文字を書き始めた頃は、書いている手元を一生懸命見ています。
 まっすぐなよい姿勢で座った時に、文字が見えれば身体は傾かないのですが、 鉛筆の持ち方が悪かったり、紙の位置が適切でないと、文字が見えない時は、図のように横から覗き込むようになります。

 姿勢の悪さを注意しても、手元が見えないので、すぐに身体は傾いてしまいます。

 姿勢を注意するより、原因である鉛筆の持ち方を直すことが必要です。

 鉛筆の持ち方のほかには、机に寄りかかることで身体を支える習慣がついていて、上体を腰で支えることができない場合も考えられます。  

何事も、「腰が据わらない」と上手くいかないもので、文字を書く場合にも、上体を腰で支えることができないと、 あちこちに無駄な力が入り、長時間の書写には耐えられません。


よい姿勢と、鉛筆の角度



上体をまっすぐにしたままで、鉛筆の先が見えれば、よい姿勢は保てます。

そのためには、鉛筆の先が見えるように、鉛筆の軸はすこし、右に(左利きの場合は左に)傾けます。また、持ち方のせいで、鉛筆の先が見えななっても身体が傾きますので、持ち方にも気をつける必要もあります。

つまり、“持ち方”を正すことで、姿勢も良くなるというわけです。









 【幼児独特の字形】



【幼児独特の字形はなぜそうなる?】

幼児期独特の字形が、何パターンかありますが、このような字を書く原因は、2通りが考えられます。

ひとつには、鉛筆の持ち方で字形が整わない場合。もうひとつは、まだ形に対する認識がきちんとできない場合です。 後者の字形の認識は、年齢とともに高まってきますし、きちんとした指導で比較的短期間に学習ができます。

けれども、鉛筆の持ち方を習得するのはなかなか困難です。 とはいえ、字形と鉛筆のもちかたは密接な関係にありますので、できるだけ合理的な持ち方を身につけるべきです。




上掲の資料は鉛筆の使い方と字形の関係を示しています。

(ア)は、鉛筆をぎゅっと握りすぎて、鉛筆の先が動かないため字が小さくなっている例です。
(イ)は、まだ手指の機能が十分に発達していないため、鉛筆がうまく持てないことが原因と思われます。 若しくは、まだ形に対する認識がきちんとできていないことが原因でしょう。
(ウ)姿勢が悪いためか、鉛筆の持ち方が悪いのか、必要以上に鉛筆を紙に押し付けて書いている例です。曲線がうまく書けません。
(エ)持ち方が悪いと、転折部分の方向転換は難しく、いわゆる「マンガ字」のようになってしまいます。 中指の位置が悪い場合に多く見られる形です。
(オ)これも、中指の位置が悪く、はね、はらいがうまくできない例です。 はねやはらいは、字形を美しく見せるという効果だけではありません。 この部分で、力をうまく加減できるから、長い時間疲れないで字を書くことができるのです。
【書き順と字形】

〈何という字でしょう?〉

   


「や」でしょうか「か」でしょうか?

 

幼児にとっては、「や」も「か」も、”ななめの線”と”まがった線”と”点”でできている形です。 書き順を同じにすれば「や」も「か」も良く似た形になってしまいます。
 
大人からみると、おかしな筆順ですが、幼児にとっては合理的な筆順なのです。 私たち大人が正しいと信じている筆順は、字の形を正しく書くために都合のよいルールです。 まだ、字の形が綺麗なことが大切だということが、理解しにくい幼児期には、 筆順という約束は通用しません。書きやすい線、あるいは目立つ線から書くのが、幼児にとっては合理的な書き方なのです。 そうはいっても、この頃の幼児は、ずいぶんと早くから文字を書き始めますので、 「まだ入学前だから。」といって放っておくと、誤った筆順が身についてしまいます 。文字を書くときの「お約束事」として、根気よく直していくべきでしょう。

 【はね・はらい】


はね、はらいができない

 
いくら言ってもできません。



  

 

 本人は言われたように書いているのですが、結果としてはねになっていない、ということもあります。

指先の器用さが伴っていないので、大人の期待(要求?)に応えられないのです。赤ちゃんがいずれ歩くようになるのと同じように、そのうちできるようになるのですが、多くの場合、そのころには、はね・はらいのことに関心がなくなっています。子どもは叱られ損・・・

そんなことにならないよう、口先だけで注意したり叱ったりしないで、指先の動きを高めるための遊びやぬりえやお絵かき、折り紙などを親子でしましょう。



はね、はらいってなぜ大切なの?


文字の学習では、「とめ、はね、はらいが大事!」とありますが、どうしてでしょう?

とめ、はね、はらいがきちんとできると、字はきれいに書けるようになるのでしょうか?


活字のゴシック文字では“はらい”はありません。また、“はね”の箇所はまがりと同じで、はねの用筆ではありません。 でも、このゴシック文字は、多くの場面で使われています。読みやすいからです。 でも、手書きのときにはこのように書くと、○がもらえませんね。

なぜでしょう?、はね、はらいがきちんとできていると、確かに美しく見えます。でも、それは幼児期や小学校入学当初の子どもやその親にとっては、あまり説得力がありませんね。




はねやはらいがきちんとできることが、字形に直結しにくいためでしょうか、結局、はね、はらいは試験での点数稼ぎということにのみ意味を持つようになってしまっています。私は、はね、はらいの働きを次のように考えています。

ーその1ー
はね、はらいには文字を書くことが疲れずにできるために力を抜く働きがあります。力んでいては疲れるだけです。

ーその2ー
はね、はらいを上手に書くためには、えんぴつをきちんと持たなくてはなりません。はね、はらいができる=持ち方が良い、という方程式が成立すると、持ち方=字形という方式も成り立ちます。ということは、はね、はらい=持ち方=字形、で、はね、はらい=字形 つまり、きれいな字形をマスターするためには、やはり、はね、はらいがきちんとできなくてはなないわけです。

先達の言うことは正しいのですが、字形との関係がもっと力説されなくては、はね、はらいの重要さが認識されませんね。

 【鏡字】


鏡字を書きます



 右利きの場合は、左方向へ鉛筆を動かすのは難しいようです。 手指の機能上、右方向へ線を引く方が簡単です。だからというわけでもないでしょうが、 「と」「く」、「せ」「ゆ」の2画目の方向「き」「さ」「の」などが鏡字になりやすい文字です。 これらは字形がきちんと頭に入ると直ります。
鏡字になる原因はいろいろいわれていますが、 いつまでも鏡字を書く子はいませんから、あまり思い悩むことはありません。





『桂風 論文集』

論文名
日 付
出版社
幼児のための文字指導
1985
第26回全日本書写書道教育研究会
 研究収録
幼児における文字指導のあり方について
1998.3
書道研究 萱原書房
幼児における書字指導(上)・(下)
1992.11 1993.8
書道研究 萱原書房
幼児の書写指導@〜J
1993〜1997
兵庫教育大学研究紀要